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多人数参加ゲームが含みうる不純について

先日、3人以上の多人数参加ゲームをプレイする機会がありました。そのとき思ったことについて書きます。

 

多人数参加ゲームでの実装率が高い、特徴的な要素の一つは「交渉」です。

仮に1対1のゲームならば交渉は論外、相手から持ちかけられる提案は全て却下するのが筋です。何故なら、1対1のゲームにおいて有利不利はシーソーのように完全に相対的なものであり、交渉によって発生する結果は「自分の有利」か「相手の有利」のいずれかしかないからです。

交渉によってあなたが有利になるならば相手が提案してくるはずがないし、交渉によって相手が有利になるならば受ける理由が無いです。唯一受けるリターンがある可能性として、相手が馬鹿で交渉の内容を冷静に吟味出来ていないという可能性もあるにはありますが、とりあえず無視します。実戦的な場合においても、そういった提案を却下することがノーリターンである代わりにノーリスクであること、逆に自分が想定していなかった被害を被るリスクがあることを考えると、やはり却下で問題ありません。

これが多人数参加ゲームになると話は全く別です。誰が有利になって誰が不利になるかには多くのパターンがあり、結果をどう捉えるかは価値観のレベルにまで落とし込めてきます。

具体例を挙げて説明します。

A君、B君、C君、D君の4人がプレイしているゲームにおいて現在のスコアが以下のようだとします。

A:5点

B:4点

C:3点

D:2点

あなたは最下位のD君です。ここで、B君があなたに手を組まないかと提案してきます。話を聞くと、B君とあなたが共に利益を得る手があり、交渉によってそれを実現したいということのようです。

この提案を受けない場合、誰のスコアも変動しません。

この提案を受ける場合、スコアは以下のように変動します。

A:5点

B:100点

C:3点

D:10点

趣旨をわかってもらうためにちょっと大袈裟にしました。

B君はあなたの助力を得ることにより、何が起ころうとこのゲームで一位を確定するほどの圧倒的なスコアを得ることが出来ます。あなたはB君程では無いにせよ、それなりのスコアを得て、最下位からは脱却します。B君にはもう絶対に勝てませんが、A君とC君から逃げ切り二位を取れる可能性は大いにあります。

もしあなたが優勝にのみ価値を見出すプレイヤーならば、この提案は却下です。

提案を吞んだ場合、B君を相手に優勝争いをすることがもはや不可能になるからです。提案を吞まない場合も厳しい状況ではありますが、提案を吞む場合に比べればスコアの差は小さく、まだ逆転の目が10%くらいはあります(あることにします)。あなたは優勝を目指して厳しい勝負を続行することになるでしょう。

もしあなたが「最下位にならないこと」に価値を見出すプレイヤーならば、この提案は承認です。

提案を吞んだ場合、B君の優勝を確定させる代わりに、あなたはA君とC君に対して大きな有利を得ます。最下位を避けたいだけのあなたにとって、B君が一位の枠を確定するリスクとあなたが最下位の枠を脱するリターンを天秤にかけた場合、後者に傾くのは明らかです。あなたは最下位を抜けて比較的な楽な勝負を続行することになるでしょう(ちなみに、先ほどの例と比べて勝負が楽なのはただ単に目標が低いからです。これは本質ではないので、あまり考えなくてよいです)。

 

もう一つ、今度は交渉ではない例を挙げます。

A:5点

B:4点

C:3点

D:2点

点数はさっきと同じ、あなたは今回は3位のC君です。

今、あなたは誰かからスコアを2点吸収出来る権利を得ました(つまり、あなたは指定した誰かのスコアを2点減らし、代わりに2点を自分のスコアに加算することが出来ます)。誰のスコアを吸収するかということにもあなたの信条が絡んできます。

もしあなたが優勝を目指すプレイヤーならば、選ぶのはA君かB君です。A君を選んだ場合、

A:3点

B:4点

C:5点

D:2点

吸収後の得点は上のようになります。

やや横並びではありますが、あなたはトップに躍り出ることになります。追い上げをかわすことで、十分に優勝の目が見えてきます。

もしあなたが最下位を避けたいプレイヤーならば、選ぶのは確実に4位のD君です。このとき、

A:5点

B:4点

C:5点

D:0点

吸収後の得点は上のようになり、D君だけが大きなビハインドを背負います。一位とはいえ同率ですが、D君を叩き落とした以上最下位の危険はグッと減ります。ちなみに、下位を死体蹴りして潰すことで最下位を回避するのはある程度一般的に使える戦術です。

 

以上、交渉の例から話を始めましたが、交渉をする場合でもしない場合でも、多人数参加ゲームでは信条が決断に大きな影響を与える、決断が信条そのものであるということがわかってもらえたと思います。

問題は、決断はゲームの内容に関係なくプレイヤーの信条に依存する関数であり、各プレイヤーで異なる質の信条、すなわち、決断が衝突なく存在してしまうということです。

「相手に勝つ」以外に目標の有り得ない1対1のゲームでは常に自分と相手の決断が衝突しますが、それに比べて多人数ゲームでは目標は多様です。「常に最下位を狙う」とか明らかに勝利を見ていない目標は論外としても、

  • 優勝する
  • 上位半分に入る
  • 最下位にならない

志の高さによってこれらは十分に考えられる目標です。

で、これの何が問題なのかというと、複数の異なる目標とそれに根差した行動を許容してしまうと、戦いが発生しなくなるばかりではなく、最悪の場合(全員ということは無いでしょうが)複数人の間で矛盾なくWin-Winの関係が成立してしまうということです。

一度信条のレベルでWin-Winの関係が成立していることをプレイヤー同士が確認してしまった場合、その関係は保持されるでしょうし、保持されるべきです。何故なら、交渉を通して部分的協力を行うことがゲームにおいて最良だからです。

勘違いしてほしくないのは、あの娘が好きだから、あいつに金を借りてるから協力しようとかそういう話をしているわけでは全くないということです(ゲーム外の「事情」をゲーム内に持ち込まないのは、正常なゲームにおいて言及するまでもない不文律です)。プレイヤーがゲーム内で個々人の目標を達成するにあたって、積極的協力が可能かつ最善の行動であるということを言っているのです。それをプレイヤー同士が確認した場合、全く正常に、しかも合法的にプレイヤー間のパワーバランスは大きく崩れます。本来プレイヤー間で対等であるべきパワーバランスが崩壊することは異常な事態ですが、「信条」というゲーム外にありながらごく正常な原因によって発生している以上、解決出来ません。

一応、本質的でない解決手段はいくつかあります。

一つは、信条による派閥が呼び水となり、(信条による、あるいは信条によらない)派閥がいくつか形成された結果、パワーバランスが拮抗して対等さを取り戻す場合です。強力な派閥が発生した場合は他のプレイヤーは結託するしかありませんから、これは十分起こりうる現象です。あるいはこれが多人数参加ゲームの醍醐味なのかもしれません。

二つは、賞品のようなものを設定することで、賞品獲得という点においての純粋さを外部から与える場合です。つまりは、賭けです。信条では最下位にさえならなければいいと思っていても、例えば、最下位とブービーは何十万の借金を背負うというルールだとすると悠長なことは言っていられません。借金を背負わないという新たな信条(あるいは「がめつく稼ぐ」でも何でもいいですが)のもとで戦わざるをえなくなります。外部から信条を上書きすることによって、ある程度全員の信条を均一化させ、志の高低差から生まれる協調関係を崩すことが出来ます(総合収支という全く別の理由で新たな協調関係が生まれる可能性はありますが、それは盤外事情ですから扱うに値しません)。

 

以上、多人数参加ゲームが含みうる不純についてでした。

おわりです。