妄想BUG

パン。蛆。トマト、レタス、蛆。ヨーグルト。蛆。蛆、牛乳。

いまや蛆は部屋の至るところで蠢いていたが、とりわけ多いのは食事が盛られた皿の中だった。箸で摘まんだレタス、その表面は風になびく白い雑巾の如し。

蛆虫はいつどこから湧いてくるのか?人類史上、その問に答えが出たのは十七世紀のことだ。当時支配的だった自然発生説はフランチェスコにより否定されたはずだが、彼女にとっては関係がない。時間も場所もなく、彼女を取り巻いていつどこにでも現れる。

そして、世の中には慣れることと慣れないことがある。どちらかといえば蛆を食うことには慣れる人間の方が少数派であろうし、彼女もまた不幸にも後者の人間だった。だからといって取り除けるわけではないので、慣れない行為を続けて生きるしかない。何度か排除を試みたことはあるが、内部から無尽蔵に湧いてくるので取り除けないのだ。

もっとも、人生にはそういうところがある。この困難は最悪ではあるが、厳密に言えば、生きていれば概ね何かしらの最悪は付きまとう。経験としての最悪の定義とは相対的に最も悪いものであって、何かしらの価値基準が存在する限り、常に従属してしまうからだ。やや殊勝な心掛けかもしれないが、これが私の抱える最悪ならば、甘受するのは吝かではない。

葉っぱの上で踊り続ける白い妖精たちとしばらく睨み合ったあと、観念してそのまま口に運んだ。いつも通り味は無く、食感も無い。だから口に入れてしまえば楽なものだが、そう割り切れれば苦労はしていない。なるべく噛まずにレタスを飲み込み、トマトの表面にも湧いている蛆を指で突いてみた。触っても感触すらなく、かといって指をすり抜けるわけでもなく、ただ白々しく、一応接触には応じるような素振りで、その場からは押しのけられる。干渉はできるが、一切の干渉が返されない。作用のみが生き、反作用は死んでいる。

目を瞑って野菜とパンを全て食べきり、ヨーグルトと牛乳を一気に煽った。乳酸品系の食品は色が似ているのであまり気にせずに食べられる。もちろん中をよく見れば、無数に泳いでいるのだが。

歯磨き、洗顔、着替え……蛆に囲まれたまま朝の雑事をこなし、クローゼットを開けた。数年間着続けているというのに、満遍無く蛆が湧いていることを除けば、どの服も破れも汚れも無く綺麗なものだ。薄い青のパーカーを手に取り、数回ばさばさと振って白い欠片を揺すり落としてから、上に羽織って家を出た。

 ******

神社に着いた。開門時刻、つまり職としての始業時刻を三十分ほど過ぎていたが、それで困る人もそれを叱る人もいない。参拝客自体が稀である上に、大抵の人は手を合わせて小銭を投げれば満足して帰っていく。管理者としての仕事は、営業しているというポーズのために門の開け閉め、たまに掃除、あとはただ敷地内に滞在すること。

裏手の門から入り、本堂の鍵を開けて中に入った。静粛な空気の中でもちらほら蠢いている蛆が見えるが、家の中よりは遥かに少ない。適当な仏像に脱いだパーカーをかけ、隅に寄せ集められている仏壇のうち、ひときわ大きなものを開ける。中身の仏具は既に廃棄されており、代わりにサイズの揃った文庫本が上から下まで詰まっている。昨日から読みかけていた本を手に取って開いた。本を読むときは、この上なく蛆虫が邪魔だ。小虫とはいえ活字に比べれば十分に大きい。

文庫本にしては厚い一冊を読み終わる頃には、高窓から差し込む太陽光で堂内が熱を帯びてきていた。換気がてら、装束を羽織って外に出た。

最も表門に近い堂にふらふらと向かう。この小堂が管理者と参拝客にとって神社の中核である儀式装置、賽銭箱が設置されている最重要施設だ。それを上から覗くと、白い蛆の間に煌めく小銭が混ざっている。誰かが金を投げ込む姿など滅多に見ないのに、それでも小遣いにしては多い程度の額が残されるのだから不思議なものだ。ここが何という宗派だったのかさえもよく覚えてないないのだが、宗教の力は度し難いということだけはわかる。

「あのう」

蛆と賽銭をぼんやり見つめていると、後ろから声をかけられた。見知らぬ他人と会話をするのはいつでもあまり良い気分がしないが、似非神職としての負い目がある境内であればなおさらだ。

「いつもお世話になってるわ」

「いえ」

しわがれた声に向かって振り返ると、杖を突いた老婦人がいた。全体的に小綺麗で、人生をリタイアした者らしい、余裕のある暇そうな雰囲気を放っている。過去にお世話をしたどころか遭遇した記憶もないが、散歩ついでにここによく立ち寄る近隣住人というのが一番有り得る線だろうか。もともと、遠くからわざわざファンが足を運んで来るような神社ではない。

「最近体調が優れなくてね」

「どちらが悪いのですか」

「目がね、もうよく見えないのよ」

「はあ」

白内障で、両眼とも。代わりに賽銭を入れてくれるかしら」

「構いませんが」

老婦人から五円玉を受け取った。

ここまで歩いて来ておいて本当に賽銭を入れる視力がないということは無かろうし、それが口実に過ぎないというのは、二人で共有している暗黙の言い分というやつだ。本当は、珍しく管理者がいたから話しかけてみただけ。その人懐っこさは全く歓迎すべきではないが、五円とはいえ収入源だ。パトロンということであれば、酌量の余地が大いにある。悪い印象はないし、人肌脱いでやるか。

装束のポケットを覗き込み、中から慎重に蛆を摘まみ出す。触っても指に感触が起こらないので視覚だけが頼りだ。一匹は地面に落としてしまったが、二匹目で成功した。

受け取った五円玉を右手で賽銭箱へ、無事拾い上げた蛆虫を左手で老婦人の顔面へ、それぞれ親指で弾いて飛ばす。チャリンとつまらない音を立てて箱に飲まれていった五円玉はどうでもよく、本命は蛆虫だ。放たれた蛆は老婦人の鼻のあたりに着地すると、するりと這って目玉へと移動した。そのまま眼球を貫通して内側へと入り込み、猛烈な勢いで増殖を開始する。瞬く間に蛆が占める体積が眼窩の容積を超え、涙のように溢れ出した。目から鱗ならぬ、目から蛆。

「ありがとうね。あなたに投げてもらったせいか、なんだかいい音がしたわ」

「……済んだ音を聞くと心が綺麗になる気がするでしょう」

あまり口を開きたくはないが、ペースを握られるよりはまだいくらかましだ。両目と地面を結ぶ白い滝を作る老婦人から目を背けつつ、いかにも業界人のような顔で話を続ける。

「それは厄が祓われているからなんですよ。清らかな音が魔を追い出し、福を引き戻してくれるんです」

出まかせを喋るのが心苦しくないと言えば嘘になるが、これは類推で許される範疇だろう。

要するに、悪いものを漠然と排除するのだ。この世のあらゆるものを「よきもの」と「あしきもの」に分類したとして、後者だけを正確に除去することができれば、結果的に幸いがもたらされるだろう。それを実行する主体が清音か蛆虫かという違いがあるだけで、構造としては同じようなものだ。

「まあ、気持ちの問題ということもありますが、その気持ちを変えるというのが、普段の暮らしの中ではなかなか難しいことですから」

「本当。なんだか、目の調子も良くなってきたわ」

話をしている間、老婦人は頷きながら両目から蛆を垂れ流していたが、じきに最後の一塊がぼとりと落ち、白目と黒目が顔を出した。

ありがたいことに、老婦人は二、三だけ礼を言って帰っていった。今日はもう誰にも会いたくなかったので、コンビニに昼食を買いにいくのは諦めて、本堂に帰ってしばらく眠った。

 ******

十数年前、家族でアメリカのなんとかいう州に出かけた折、レンタカーにタンクローリーが衝突。二台とも炎上、オイルが近くの建物に燃え移り、近隣の村一つを焼く惨事へ。右半身に重篤な火傷を負った彼女は州最大の病院に収容され、数日間意識を失っていた。

 

小学生の彼女は囲まれていた。何か黒い塊に。悪意は感じない。しかし、著しく悪い。その塊が自分を殺そうとしているわけではない。ただ、塊の存在は結果として自分を殺す。勝手に進行して死に至らしめる、そういう性質の現象がそれなのだ。それ自体は全く珍しいことではない。むしろ、どこにでもある。草原にも、海底にも、宇宙にもある。帯のように広がっていることもあるし、ポツリポツリと点在していることもある。

それ自体が管轄しているのはただ出現と進行であって、目的、つまり悪意を持つのは、誰かの手に道具として渡ってからだ。そのものは目的を持たない現象に過ぎず、存在に気付いたからといって付きあう必要もない。例えば、逃げてしまえばいい。ただ普通に、その近傍から離れることさえ出来れば、最悪な終わりを体験することは無いはずだ。

しかし、今回に限ってそれは絶対に出来ないことに気付く。なぜなら、彼女がその現象を収容している器だからだ。どこにでもある「あしきもの」は、今回は彼女の中に巣くった。こうなってくると、俄然厄介。なぜなら、それは出現と進行のみを行い、退行とか、排除とか、そういう機能を持っていないからだ。いや、持っているのかもしれないが、少なくとも彼女はその機能へと外部からアクセスする方法を知らない。だからどうしようもなく、進行を見つめるしかなかった。時間が経つにつれて、黒い塊は彼女の内側を満たし始め、世界には漆黒の帳がかかった。

全てを諦めてからしばらくして、同じ私の中だが別のどこか、広がる闇の世界の末端で何かが蠢き始めた。その存在はどちらかというと不快で、最初はあしきものの一種だと思っていたが、微妙に性質が違うことに気付いた。優しく昏倒させるように包み込むあしきものとは異なり、蠢くものは活動的で、バイタリティーともいうべきものを備えている。あしきものはコーヒーの中にミルクが溶け込むように波及するが、蠢くものは竹の地下茎が地面に根を張るように力強く、確実に拡大した。

じきに、蠢くものがあしきものから世界の領域のいくらかを奪い取って占有した。どうも蠢くものはあしきものをただ押しのけるだけではなく、削り、除き、食っているようだった。また、蠢くものの拡散は、あしきもののように一つの個体の占める面積が増していくようなやり方ではなく、同一の個体が複製されることによって群れの総体としての面積を確保するそれであった。結局、餌を食して増殖を行うという、原始的で一般的なライフサイクルが成立しているというわけだ。一度火がついた繁衍はもう止まらない。蠢くものが雪崩のように殖え、捕食対象であるあしきものを完全に駆逐するまでにそう時間はかからなかった。

 

彼女が目を覚ましたのは薬品臭いベッドの上だった。右腕には何か穴の開いたカバーのようなものがかかっており、その中からは意識の中で感じたものと同じ蠢きを感じた。

「それはマゴットセラピーと言って、蛆が悪い部分を食べてくれるんです」

「知ってます。餌なんですよね。彼らにとっては」

一瞬医者はたじろいだが、すぐに笑顔を見せた。

「気味が悪いかもしれませんが、仲良くしてあげてくださいね」

それはもう。

 ******

「お姉ちゃん、掃除しといたよ」

日が落ちて、家に帰ると妹がいた。どこに住んでいるのかもよくわからないが、年に何度かは現れる虫のようなやつだ。いつも突然に現れ、一日か二日泊まって帰っていくので、宿が確保できなかったときの緊急避難先にされているのだと思う。

そして彼女の言葉に反し、部屋の中には蛆が大氾濫していた。あちこちにいるという段階を遥か前に通り越し、部屋に堆積して山河を形作っているという有様だ。これも年に何度かはあることで、蛆が増えるということは糧にするあしきものが豊富にあるということだ。今回は妹が何かを持ち込んできた可能性が高いが、どうせ蛆が食ってくれるので警戒する必要はない。

だから妹は放っておいて、脱衣所へと移動した。食事の次に気が重いのが入浴だ。蛆を食う趣味は無いが、蛆で身体を洗う趣味もない。

ふと脱衣所の洗面器を覗き、異変に気付いた。いつもと違い、容器を埋め尽くしているのは白い蛆ではなかった。見たことのない、黒くて鋭角なフォルムを持つ何かが水の中を活発に泳ぎ回っている。白くて丸っこくて同じ場所でもぞもぞ蠢いている蛆とは正反対だ。一見すると稚魚のようだったが、こいつも蛆と同じで虫の幼体であることを知識としては知っている。ええと、名前をなんというんだったか。

「ぼうふら。だね」

いつの間にか妹が後ろに立っていた。

「普段はこんなの見ないんだけど」

「違う。それ、私の。お姉ちゃんの蛆と同じやつね」

「……」

水を捨てようとしていた手が止まった。警告音がぼんやりと頭の中に鳴り響く。

蛆の幻覚については誰にも話したことがなく、妹も例外ではなかった。蟲が湧く人間も、自分から蟲が湧いていることを認識している人間も初めて見たことになるが、どちらかといえば、より大きな問題は後者だろう。

「ぼうふらって、どういう虫だっけ?」

「ぼうふらに聞いてね。冷蔵庫のハム食べていい?」

妹は欠伸をして、こちらが返事をする前に立ち去ってしまった。試しに手元の容器に手を突っ込んで掻き回すが、ぼうふらの感触はない。なのに、当たった手を避けて泳ぐ。

どうも妙なことになってきた。

妹が自分の身体からぼうふらが湧くと主張しただけならばまだ良かった。妹と自分の頭がおかしくなったというだけで済むからだ。精神障害傾向は環境のみならず遺伝に支配されることも多く、むしろそういうものの一種として理解することがより強く支持されただろう。

そもそも、今までは自分の頭が部分的に何らかの病気に罹患したものとして蛆の存在を理解していた。幼少期のトラウマ的経験によって認識系の一部に支障をきたし、日常的な幻覚を見ることになったものだと。蛆の幻覚が何か現実に影響を及ぼしていたような経験があるとしても、そんなものはただの思い込みか、記憶さえもまともに保持できず都合よく改竄しているということにすれば事足りる。それは蛆の神に取り憑かれたとか考えるよりもよほど有り得るし、何より平穏な世界を破壊しない理解だ。

しかし、妹も蛆を視ているという言質が取れてしまったのだから、状況は全く変わってくる。脳髄を覆っていたはずの蛆と妄想が引き剥がされ、有無を言わせない現実が出土しようとしている。今この瞬間から、私と妹の接触は現実世界のある部分を破壊し再創造する、ただでは済まないものだということだけが間違いなく事実だ。

 

リビングに戻ると、妹の他に見知らぬ女性が一人。

四人掛けのテーブルで妹の隣に座り、何をするでもなく足をぶらぶらさせているセーラー服の女がいた。妹はどちらかというと小柄な方だが、奥に並ぶ女は更に小さい。高校生風の外装に反し、中学生でも幼いくらいだ。ハムサンドを食べている妹がその女に気を払う気配は無い。

思わず溜息を吐きそうになる。今新たに浮上した問題は、彼女は蛆やぼうふらと同類の幻覚かということだ。いや、個人の体験に過ぎないはずの幻覚を共有することは有り得ないので、後を引くテールランプのような、光学的な実体か、視覚認識にのみ残る残像か何か。とにかく、私は未知のものと接触する度に、それがファントムかどうか確認する義務を負ったのかもしれない……が、それについては最初に蛆を視始めたときからあまり変わっていないか。

「セーラー服のきみ」

呼びかけに応じ、未知の女がこちらを向いた。

視線が合って第一印象、まず強烈な不愉快があった。容姿は整っていて、髪や靴(土足であることに今気付いた)には隅々まで手入れが行き届いている。ただ、ぱっちりとした大きな目からこちらへ向けられる視線だけが、有り得ないほど外見に噛み合っていない。絡み付くようなというか、排除し難いというか、限りなく粘着質なのだ。粘るといっても必ずしも陰気ではなく、むしろ逆で、ぐいぐいと他人の中に侵入して粘液を身体の中に残していくような、積極性と後ろ暗さが共存している有様がその女の目だった。

「はじめまして。気軽にみやすんって呼んでください」

女が目を細めることでこちらから見える眼球の面積が減り、嫌な感じが多少薄れる。目さえ見なければ見た目通りの清潔で快活な印象かもしれないが、目を見ないわけにはいかないので、見た目通りではない不潔で陰鬱な印象だ。

「きみ、妹のともだち?」

「はい、お友達です」

「ただの知り合いだね」

意見が割れた。

「あなたは嵐の天気予報にワクワクする方ですか? しない方ですか?」

自己紹介は終わったのか、それとも自己紹介の続きなのか、みやすんはそんなことを話し始めた。

「大震災が来たときはどう思いましたか? 近所で火事が起こったとしたら? 明日新宿にジャック・ザ・リッパーが現れたらどこかに逃げますか? 手元に核弾頭ボタンがあったら押しますか?」

「なんとも思わない。帰って何か食べて寝る」

「あれ? 意外です。ワクワクする人、ボランティアに行く人、野次馬に行く人、西新宿駅に通う人、十六連射する方の人だと思ったんですけど」

「私はそんなに無節操に見えるかな」

「いえ、どちらかというと落ち着いた方に見えますが。視える人にろくな人間はいませんからねえ」

みやすんもそうだということにはあまり違和感がなかった。視える側というのも、ろくな人間ではないというのも。並の女子なら一匹でも悲鳴を上げるような蟲が無数に散乱する惨状の中、平然と座っていられる時点でどうかしている。水の代わりに蛆でできた海を泳ぎ回る魚の代わりにぼうふら、そして陸をゆっくりと這い回るナメクジ。

ナメクジ?

「これ、みやすんの?」

「はい!」

「こいつ、気持ち悪いんだよね。私のはスイスイ泳いでかっこいいし、お姉ちゃんのもコロコロしてて可愛いけど、ナメクジって。ちょっとフォローのしようがないよね、流石に……」

クスクスと笑う妹の手元にナメクジが近付いた。

「近付かないでね」

妹はそう吐き捨て、ナメクジの近くにコップの水を垂らした。当然のように水からはぼうふらが湧き、宙へと飛んだ。その飛翔が羽化によるものだということを理解するのに少し時間がかかった。しばらくテーブルの上を舞った蚊が不意にナメクジの上に止まり、その瞬間、ナメクジが爆散した。日常ではなかなか見られず、喩えようのない、全身がバラバラになるモーションで派手に体液を撒き散らし、水の中へと溶けていく。

「ったく、死に際も気持ち悪いなあ」

「酷いですよー」

「君はせめて気持ち良く死んでね」

妹が座ったまま器用にみやすんを蹴り飛ばし、みやすんは蛆の溜まりと化した床へと倒れ込んだ。がしゃんと大きな音が立つが、どちらもイマイチ動じていないところを見ると、この二人の間ではよくあることか、少なくとも驚くべきことではないようだった。

「一応私の家なので、あまり暴れないように」

「あ、ごめんねお姉ちゃん」

ワンルームではないとはいえ、平均は下回るような貸しアパートなのだから、騒がれると困るということは教えておかないといけない。

二人ともテーブルの下に大荷物を広げていて、しばらく居座る予定みたいだし。

 

(つづく)