妄想代理人
を、GEOで借りてきて全話見ました。ネタバレを含んでしまうので、嫌な人は見ないで下さい。
面白かったです。最初に起承、中頃で少年バットの話を進めつつも少し脱線、終盤で一気にまとめていくという流れでした。
物語の前提として形而上の存在の干渉をどの程度まで認めているかということが二転三転するのが若干見づからかったです。具体的には少年バットの正体についてでありまして、第一話ではまだなんとも言えないところ、第五話で少年バットも現実の存在なんだなと思いきや、第六話でそうでもないらしいことがわかり、終盤では何でもアリ。「アリ」と「ナシ」の閾値の設定が緩く、頭が混乱しました。
全体に関しては、序盤の謎の広げ方に比べて最終的な話のまとまりはスッキリとしていたため、面白かったですというくらいしか言うことがないです。「現代社会の歪み」だの「二種類の救済」だの、作品から明らかに読み取れるテーマについては多分もう誰かが書いてるんで書く気しません。
というわけで、細かいことについてダラダラ書きます。
- 第五話での狐塚の証言
結局狐塚が襲ったのは蛭川と牛山だけなんですよね。それにも関わらず他の人物についても妄想の中で描写したのは視聴者のミスリード誘発を狙ってのことなんでしょうが、それにしたって偶然の一致にしてはあまりにもやりすぎのような気がします。
- 老婆の孫
第六話では老婆の孫が妙子と思わせるようなミスリードが仕込まれていましたが、このミスリード、要りますかね?老婆の孫が妙子であろうとなかろうとどっちでもいいように思います。
- 月子の狂言疑惑
第一話ではなく、第五話で月子が嘘をついているのではないかと疑われるシーンの不自然さについてです。この時点で既に狐塚は逮捕されていますから、馬庭と猪狩は月子が描いたイラストと狐塚の外見一致を確認していると考えるのが妥当です。結局月子が見たのは狐塚では無かったとはいえ、少年バットと外見はよく似ているわけですから、その整合を捨てて狂言を疑うのはちょっとおかしな気がしました。
- 第八話の解釈
圧倒的に浮いている第八話。幽霊という設定が導入されているのはこの話だけです、少女セクト原作第六話みたいなもんですね。本編全体の中での役割は少年バットの凶行、あるいは妄想が拡散する様子を描写することだと思うんですが、主人公格の三人が襲われるわけでもなし。一般的にも気になる話のようで、Googleに「妄想代理人」と打ち込むと、全話の中で唯一サブタイトル(「明るい家族計画」)を含む変換予測が出てきます。
とりあえず三人が死んだタイミングについてです。冬蜂が終盤に気付く影の有無について最初から注意深く観察してみると、まず開始直後には確かに三人に影が有りますが、冬蜂が影がなくなっていることに気付くまで(恐らく意図的に)影が描写されません。練炭自殺の前後で明らかに時間軸がおかしなことになっている(練炭自殺を始めたときは夜だったのに、ビルが取り壊される時は完全に明るくなっている)という点から、練炭自殺が成功していたと考えるのが妥当だと思います。三人が物理的干渉をしているし旅館にも泊まっているのが怪しいところですが、幽霊の定義について突っ込んでいるアニメではないのでなんとも言えません(ゼブラが幽霊を見たことについても彼が霊感が高かったからとかたまたまとか考えようはありますし、一粒余りっぱなしだった薬についても同様です)。ラスト、写真に写りこむところでは明らかに他人からは見えなくなっていたので、彼らが幽霊であることを受け入れるまでは他人にも干渉出来るんでしょうか。そもそも冬蜂以外は死に気付いていたのかどうか、どうとも言えないことだらけです。
別の話として、この話に出てきた少年バットは本物か偽者かも気になるところです。本物の少年バットは壁抜けが出来ることは第六話で既に示されてますから、仮に本物であればわざわざ階段を転げ落ちなくてももっとスマートに退散が出来たはずです。かといってこの話で少年バットが偽者である必要は特に無いですし、うーん。
- 「猪狩の町」と月子
猪狩の妄想である「町」に月子が辿り着き、マロミ曰く月子にとっても良い居場所として描写されていたのは何故なんでしょうか。少なくとも、年代的に月子の理想郷ではないはずですが、単に妄想の世界として居心地がいいだけかもしれません。
- マロミが「黒い塊」を止めるところ
ポジティブな意味では一番好きなシーンです。月子の不注意で自分が死んだことを知ってもなお(あるいは最初から知っていて)、それでもマロミは月子を守るんです。ベタながらいいシーンです。
- 白髪の老人
彼の役割があまりわかりませんでした。第一話から意味有りげにチョークでなんか書いていた割には、最終話で提示された真相は月子の中で完結していて彼の干渉する余地はありません。単に「妄想に対して何かしらの心得のあるひと」というだけで……思い返してみると、物語中で接触があったのは主に馬庭だけでした。終盤で馬庭にアドバイスを行うため、そして妄想の世界から戻ってこられなくなった馬庭の老人化で事態の繰り返しを暗示するためということでいいんでしょうか。
- 老婆
インパクトの割りにあんまり出番無かったですね。
DVD最終巻の特典「妄想ラジオ」、おっさん3人がウダウダ喋ってる上にやたら長くて聞くのがダルいんですけど、「これを聞かずに妄想代理人は語れない」とか銘打ってあるので仕方なく頑張って聞きました。というか、聞きながら書いてます。
今、最終話最後の馬庭について「ループになっている」と明言しました。製作者がそう言っているならそうなんでしょう。
「妄想代理人」はループものだったということで、それでは。
インテリぶる推理少女とハメたいせんせい In terrible silly show, Jawed at hermitlike SENSEI
インテリぶる推理少女とハメたいせんせい In terrible silly show, Jawed at hermitlike SENSEI (HJ文庫)
- 作者: 米倉あきら,和遥キナ
- 出版社/メーカー: ホビージャパン
- 発売日: 2013/02/28
- メディア: 文庫
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原題で話題の例の本を読んだ。
いかにもラノベ然としたタイトルに反して実験的な内容を多々含んでおり、ライトノベルで有りながら全くライトではない。むしろ奇書・怪書の類で、賛否両論がある小説であることは間違いない(amazonのレビューによると賛1、否5)。
乙女の心はいつだってミステリアス
「……せんせいにはわるいうわさがあるのです。もちろんわたしはせんせいを信じています。けれど……」
人間は無作為にテキトウに動くのだ、と主張する文芸部顧問になった「せんせい」と、この世の全てが理屈通りに動いている、と信じて疑わない中学生の文学少女「比良坂れい」の2人が孤島を舞台に繰り広げる壮絶な頭脳戦と恋愛模様。
ヒロインにあらぬ誤解をかけられた「せんせい」がそれを晴らしていくコメディなのだろうかと思いきや、開始数ページでその推測こそが誤解であることがわかる。主人公「せんせい」は正真正銘の強姦魔であり、その癖ロマンチストな彼がヒロイン「比良坂れい」を理想的に強姦するべく、文芸部員を次々とやはり強姦しながら頭脳戦を繰り広げる物語なのだ。
「比良坂れい」の姉は物語開始時点で既に死んでおり、彼女の殺人事件ないしは自殺事件が物語中で主人公の強姦とも関わってくる大きなファクターなのだが、この事件の解釈がこの小説を難解たらしめている原因のひとつ、そして象徴と言えよう。訳あって記憶朧な「せんせい」が回想したフレームに新たな証言が加わって終始真相が二転三転し、結局真相は存在するのかどうかすらわからない。芥川龍之介「藪の中」の如しである。
序盤ではコメディ調に強姦を進めつつ物語の真相を解き明かそうという素振りで物語が進んでいくのだが、中盤以降「比良坂れい」が狂気を帯び始めたあたりからこの小説には正気の登場人物がいなくなる。「神の視点」などという便利なものはない、強姦魔の「せんせい」が最初から正気であろうはずもなかろうが、狂人が演技をして狂気に満ちた記憶や証言を語り始めれば最早手に入る真相など存在しないのである。
一番の見所である終章では文章そのものが露骨に物語に対してメタ的な立場をとり始める。我々は小説の登場人物であるから叙述ミステリや物理ミステリを行使出来る、などとメタ解釈を含んだ「解決」を数ページに渡って続けたと思えばそんなことあるわけが無いだろう現実を見ろと全否定、返したちゃぶ台を超能力で制御するような破綻したやりとりが延々と続く。序盤にバラ撒いた伏線を回収した途端に夢オチ扱いになり、全てを解決するデウス・エクス・マキナもノリツッコミの一発で追い返され、わざわざ提示された問題は一向に解決されない。そもそも問題とは何なのか、解決する必要は有るのか?
色々と解釈はある、というか解釈しか無いのだが、やはり読んだ以上は僕は僕として無責任に解釈の一つを示しておきたい。論理では無いので結論だけ書くと、この小説は「比良坂れい」の一途な恋愛物語なのだ。
オススメはしないが、僕はこの小説はとても面白かったと思う。作者の米倉先生は新人のようだから、次の作品に期待している。
3/1 晴れ
大日本帝国憲法です。日付が変わってしまいました。
そろそろまともな社会に復帰するのに人間の神も屑もないわなと思って適当に思い付いた単語をハンドルネームにしたんですが、自分でも定着する気配が全く無く、やはりこれは無いだろうと思います。とはいえ、僕のハンドルネームが有ろうが無かろうが別にどうということも無いので、頑なに使い続けます。ただ、右寄りの人間と誤解されるのだけは少しマズいです。
- 部屋の整理
受験関係の参考書やらテキストやらを片付けねばならぬと思って部屋の整理を始めました。
始めたのですが、それらをいざ捨てようという段になると、それらが高額であるというのが一つ、一年の苦しみを共にしてきたというありきたりな愛着が一つあって、中々捨てる踏ん切りが付きません。一般に販売されている参考書は筑駒の文化祭に持っていけば良いとしても、高額な割に希少でもない塾のテキストを持っていくのは多分相当ウザいので、どう処分したものか悩みます。一応まだ合格発表を控えていて受験が終わっていませんので、浮き足立って踏ん切りがつかないのではないかとも思います。本格的な片付けは3/10を待ってからにするべきでしょうか。
部屋を整理するついでに出てきたガガガ文庫創刊当時のビラだの、十年前の陰陽師(映画)のグッズだのという個人的おもしろグッズを載せようと思ってデジカメで撮影しておいたのですが、どうもPCの調子が悪く読み込めないので面白くないです。すいません。
- くらしぶり
いざ試験が終わってしまうと、やりたいことが無く、非常に暇です。実は試験前にも「試験が終わる前は色々やりたいことを言っている割に試験が終わるとどれもやらなくなるんだろうなあ」と予期して、前もって携帯に受験が終わったらやることリストを作っておいたのです。
部屋の掃除
海まで自転車で行く
「ブレードランナー」を見る
「猿の惑星」を見る
銀行口座を作る
筋トレをする
…
とか、こんなことを色々書いてあります。このリストを見ながら検討していると、単に時間がありながらやろうと思っていたことをやっていないだけでありまして、いやしかし、今やるきがしないことは既に現在やろうと思っていることでは無いのだから、無理にやる必要は無いのではないか、とか、色々考えて結局何もしていない次第であります。ただ、高校時代もこの葛藤の末に無駄に過ごしたという強烈な後悔がありますから、何かをしないわけにはいくまいという思いが優勢なのはありがたいことです。一応、毎日8kmのランニングだけは欠かさずやることにしています。欠かさずといってもまだ3日しかやっていませんが、これは途中で投げ出さないだろうという予感がします。僕は腰は重いですが、一度始めたら続く性質なのです。
せっかくブログがあるので、明日は自転車に乗ってどこかに行くか、映画を借りてくるか、図書館に行く、このどれかをやるということを宣言しておきますね。
どれも出来なかったら明後日死にます。
それでは。
妄想について
二年前卒業文集に載せる予定だったやつです(当時時間が足りなくて書きあがらなかった)。
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私の親友は頭部がテレビだ。
中学一年で知り合い、中学から高校の六年間、卒業を間近に控えた今日まで、それなりに仲良くやってきた親友、その頭。つい最近、「彼の頭部がテレビである」ということに私は気付いた。気付いた私は苦悩した。「彼の頭部がテレビである」ことは眼前の事実だが、「彼の頭部がテレビになった」かどうかはわからなかった。つまり、「彼の頭部はテレビでは無かった」という記憶がはっきりと思い出せなかった。彼と私は仲が良かったはずだ。体育祭のテントであってないようなことを延々と話し合ったり、愚痴をこぼしながら文化祭の作業に勤しんだ記憶もはっきりとある。だが、私と話していた彼の顔が、金槌を操っていた彼の顔が、「テレビでは無かった」と言えるだろうか。そもそも、「彼の頭部はテレビかどうか」など、ふつう確認しなくてもわかることであるから、「彼の頭部はテレビでは無かった」という記憶が無いのは当然ではある。しかし、「彼の頭部はテレビでは無かった」から「彼の頭部はテレビかどうか」を確認しなかったのではなくて、「彼の頭部はテレビだった」が、それでもなお「彼の頭部はテレビかどうか」を確認しなかったのかもしれない。
私は考えるのをやめた。別に一人で考える必要は無いのだ。本人に聞けば良いだけだ、「君の頭部は何時からテレビなんだい?」と。
「そういうわけで、君の頭部は何時からテレビなんだい?」
私がその質問をしたのはある月曜日の放課後だった。HRの直後で、まだ教室からは人が散りきっておらず、クラスメイトが掃除をしている音や雑談に興じている声が聞こえた。今日は天気が良かった。青い空には白い雲がいくつか浮かび、強すぎない日差しが差し込んでいた。窓から涼しい風が吹き込み、カーテンを揺らした。騒がしい教室の中で、彼のモニターの中の顔は滑らかに動きながら答えた。
「何時から?何時からだろう。昨日かそれとも一年前か、ひょっとして、HRが終わった後からか。君は何か覚えているか?」
何度も考えたが、それがわからないのだ。質問した手前、即答するのも失礼に当たるような気がして、一応思い出すような顔を作って、悩むふりをしてみた。
「わかったかい?」
「何も。よくわからない。考えても無駄なような気がする」
「じゃあ、僕の名前は?」
「ナインティーン」
例え頭部がテレビであろうと、親友の名前を忘れる私ではない。ナインティーンは頷き、話し始めた。
「そう、僕の名前はナインティーンだ。君は僕の名前を知っている、一方、君は僕の誕生日を知らない。それは何故か?特に教えていないからだが、聞かれれば教えたさ、つまり、君が僕の誕生日を聞かなかった、ではそれは何故か。重要では無いからだ。僕について識別するという目的に関して、本質に近くないんだ。それと同じだ。君はいつから僕の頭部がテレビだったかを気にしているようだが、そんなことはどうだっていいじゃないか。真に君が聞くべきなのは何時から僕の頭部がテレビで有るかという問題では無く、何故今僕の頭部がテレビであるかという問題だ。君が本当に気にしているのは前者の問題では無い。ただ僕に違和感を感じた結果、的外れな質問が口を付いてしまっただけだ。本質に近い何故の問題が完全に解決されれば何時の問題も自然と解決する、だから、僕は僕の頭部がテレビである原因を話すべきで、君はそれを聞くべきなのだ」
ナインティーンはまくしたてる様に一方的に喋り、話を切った。はっきり言って、ナインティーンの指摘は正しいわけではなかった。最初に私が疑問を持ったそもそもの発端は、私の頭の中にある標準的人類のモデルに基づいた、恐らく人類であろうところのナインティーンの頭部は少なくとも出生時においては現在の状態では無かったであろうという推測であって、別にナインティーンがどうしてそうなったのかという原因を追求する探究心ではなかった。そもそもこの質問は突発的なそれではない。そういう、私が疑問を口にするという結果に到達するまでの過程については推測を誤っている。ただ、最終的には原因を検討する必要は確かにあるかもしれないし、何時を辿れるならばそれで構わない。
「わかった。続きを」
「僕には昔から、<その『昔』というのは頭がテレビになる前か後か?>とかいう無駄な詮索はやめてくれよ、夢があった。ゲーム再生機になる夢だ。簡単に言えば、君の疑問の答えは、僕がゲーム再生機になりたかったからだ」
話が妙な方向に進み始めた。今更ナインティーンが何を言おうと驚きはしないが、私が知りたかった原因はテレビを頭部に取り付ける直接の方法、つまり、どういう手術をした、とかあるいは呪いを受けた、とかそういう類の方法という意味での原因である。今ナインティーンが答えた動機という意味での原因は私の疑問と無関係では無いにせよ、本質を外していると言わざるをえない。やはりさっきのは勘違いだ。摘み取らなかった芽がつるを伸ばしている。
「知っているだろうが、僕は昔からゲーム好きだ。ずっと、一日中ゲームをして過ごしていたいと思っていた。家に引きこもって親の脛をかじりながらゲームをしていれば良いのだろうか、そういうわけにもいくまい、プラスを得るために膨大なマイナスを同時に獲得するようでは。普通に社会生活をして、しかもゲームをし続けらればいい。いちいち専用の再生機でゲームを再生するから、空間的にも時間的にもゲームをプレイすることが自由では無くなるんだ。僕自身がゲームを再生出来るようになれば、いつでもどこでもゲームをプレイ出来る」
そこまで語り終えたところで、私が怪訝な顔をしているのに気付いたのだろう、ナインティーンは大きく溜息を吐いた。
「少し話題を変えよう。何故飛行機が飛べるのか知っているかい?飛びたいと思っている鉄の塊で出来ているからだ」
「本気かい?」
「いや、冗談だ。半分はね」
「もう半分は?」
「やはり本気だ。物事にはそういう側面もある。意思の力」
話の真偽はともかく、彼が舵を切った会話の方向に少し安心した。飛行機の例、動機を直接の原因に転化する例を出したということは、ナインティーンは私が感じた不一致を理解している。私が内容の胡散臭さに対して怪訝な顔をしたのだと彼がやはり勘違いをしたのであれば、最早この会話で二重に重なったそれを修正するのは困難極まっただろう。
ナインティーンはテレビの側面をコンコン、と二度叩いた。すると、モニターからは彼の顔が消え、RPG調のゲーム画面が映し出された。
「こういうことさ」
左右のスピーカーからナインティーンの声がした。
「出力の問題だよ。普段は顔のチャンネルを出力して生活しているが、ただアウトプットしないだけで別のチャンネルでは同時にゲームをプレイしながら生活している、勿論今君と会話している最中もゲームをプレイしている。ちなみに、君と話している1分19秒の間にもレベルが1つ上がった。まだ序盤だからね、レベルの上がり方が早い」
「ゲームをプレイしている意識と、会話している意識が混線することは?」
「全く無い。そもそもが混線しないためのチャンネルであり、モニターだ」
再びナインティーンがテレビの側面を二度叩くと、画面は顔を表示するチャンネルに戻った、彼の説明によれば、だが。
「顔のチャンネルの機能は言葉や表情をアウトプットして他人とコミュニケーションを行うというところだ。ちなみに、君と会話が出来ている通り、どのチャンネルであろうと視覚や聴覚のインプットにも支障は全く無い」
「そう。便利なものだね……」
機能のことを話されても頭部がテレビで無い私にはよくわからない。ナインティーンは指で顔をかいた私の動作をネガティブなものと受け取ったらしく、少し申し訳なさそうな顔をして話を続けた。
「少し話が脱線してしまった。何故僕の頭部がテレビかという話だった。さっきも言ったが、結論はやはり、僕がゲーム再生機になる妄想をしていたからだ」
「妄想」
「そう。妄想。妄想は微に入って細に渡り、すればするほど面白い。ゲームを再生するためにはゲームディスクを挿入しなければならないね。腹のあたりに挿入口を設けるのがスマートだろう」
ナインティーンは着ている青いシャツの裾を捲って私に見せた。腹部にはゲームを挿入するためのスロットが取り付けられていた。
「そして僕はゲームを読み込むんだ。僕の中でディスクが回転しているのを感じる。キュルキュルキュル、という音が全身に響くだろう。少し振動するかもしれない。そして待ちに待ったオープニングが始まり……」
「わかった、わかった。つまりはそういう妄想が好きなんだね」
私は無理やり話を打ち切った。余りにも恍惚として語っているものだから、少し申し訳ないような気もしたが、放っておくととても話が終わりそうになかった。ナインティーンは自分の妄想に没頭していた。
「ああ、まあ、そうだ」
余韻が残っているのか、歯切れは悪かった。
「ま、とにかく妄想は楽しいってことさ。見たまえ」
ナインティーンがテレビの側面をやはり2回叩くとチャンネルが切り替わり、白い背景に黒い文字で以下の文章が表示された。
前提:妄想とは、独りよがりで省みない、非合理かつ訂正不能な非現実である。
ルール:妄想は力を持つ。
「それに、僕だけじゃない」
ナインティーンは両手を大きく広げて、周りを見るように促した。見渡してみると、教室中に完全な人間の形をしているものは一人もいなかった。顔から下が電車の車両の形をしている生徒、腹部から悪趣味なヤモリの足を生やしている生徒、体中がトランプで覆われている生徒。それぞれが特徴的で実に奇妙な造形をしていた。
「特に、CITYとか」
モニターの出力を顔を映すチャンネルに戻したナインティーンが、教室の隅でこちらに背中を向けて座っている生徒を指差した。彼のまわりだけがほんの少し薄暗く、グレーの霧を纏っているように見えたが、他におかしなところはなく、中肉中背、シャツを着たただの生徒という風で、奇奇怪怪な他の生徒に比べればかなりまともな外見に思えた。
「やあ、CITY」
ナインティーンが呼びかけると、CITYと呼ばれた生徒がゆっくりと振り向いた。彼の顔がちらりと見えたと思った瞬間、膨大な風景が私の五感を襲った。彼は打ち捨てられた廃墟街そのものだった。暗く陰鬱な路地の天井に水道や電線が無数に走っている。染みと汚れが何重にも重なった天井からは汚い廃液が滴り落ち、路面を濡らす。くすんだ竹で編まれたような扉が路地の左右にいくつか取り付いている。壁の割れ目から鼠が顔を出し、右から左へと走りぬけるが、人の気配は感じられない。決して彼がそういった風景のフィギュアを持っているとか、体が廃墟の形をしているわけではなかった。CITYは中肉中背の男子生徒であったが、それと同時に廃墟街の風景でもあり、私は彼の前に立ちながらも廃墟街の前に佇んでいた。
「何だ」
"CITY"はあからさまに不機嫌そうな声を出した。
「すまん、呼んだわけじゃないんだ」
ナインティーンが手をひらひらと振って投げやりに謝る。明らかに呼んでいただろうに。
「そうか」
ぶっきらぼうな性質なのか、そう答えただけでCITYは再び後ろを向いてしまった。廃墟街も同時に消え失せ、それを気に入っていたわけではないにしろ、一つの世界が消えたような気がして少し寂しい気持ちになった。
「CITYは廃墟になる妄想が好きなんだろう。僕にはわからないが」
ナインティーンの不用意な発言をCITYが聞き咎めるのではないかと思ったが、ナインティーンが喋っている間にもCITYはやはり後ろを向いたまま教室を出て行ってしまっていた。ナインティーンの雑なコンタクトに無言で怒っていたのかもしれないし、ただ単にそろそろ帰りたくなっただけかもしれない。CITYが退出したのをいいことに、私は規格外な彼の有り様についてナインティーンに尋ねることにした。
「彼はどうも、クラスメイトの他の誰とも違うような妄想をしているように見えた」
「妄想しているものが違うだけだ。なりたいものの問題だ。僕がゲーム再生機になりたかったように、何かわかりやすい造型や機能を持った物質的なオブジェクトになる妄想は難しくない。しかし、機能そのものやこれといった形の無い概念であるとか、雰囲気、あるいはそれらの要素を色濃く持つオブジェクトとなると、妄想は難しい。さっき僕は、妄想はすればするほど面白い、と言ったが、逆に言えば細かく妄想出来なければ面白くないということでもある。現実に即した何かである必要は全く無いが、とにかく細部だ。匂い、舞う塵、汚れや染みの様子を克明に妄想するんだ」
「大変だね」
「大変とは違うよ。妄想は娯楽であって義務ではないんだから。妄想の原動力は何かを求める気持ちだ。そういう気持ちが大きければ大きい程、大規模かつ緻密な妄想が可能になる。つまるところ、彼は本当に廃墟が好きなんだろう」
そこまでナインティーンが話し終えた時、突然窓の外からボンという大きな音が聞こえた。間延びのしない、巨大な爆発音である。
「うわ」
かなり大きい。続いて地面が揺れた。震度で言うと2くらいだろう。地震ならば大したことは無いだろうが、地殻の奥深くに震源があるわけでは無いのだから、この微小な揺れは爆発による衝撃が如何に大きいものかを物語っていた。
「む、大きいな」
そう呟いたナインティーンは何かこの爆発について知っている、あるいは慣れているに間違いない。何故ならば、少なくとも爆発自体に対する驚愕を表現する限り「大きい」という反応は有り得ないからだ。原因ではなく規模について言及する反応は、原因に関心が無いことを意味するだろう。
「何が起きたんだ、ナインティーン」
無論私は爆発自体に対して驚いたのみであるから、何か知っている彼に聞くに限る。
「妄想が……いや、百聞は一見に如かずだ。見てみるといい。丁度この教室の窓からよく見えるよ」
私は窓の外に視線を向けた。一瞬何も見えないではないか、と思ったが、視線を下げると小さな、しかし確かに燃え盛る火球が見えた。火球の下には、少し丸みのある扁平な直方体に手足が生えた奇怪な胴体らしきものが付随している。
「よくわからないけど大変じゃないか、中庭の木に引火したら大事だ」
「もう遅い」
ナインティーンの言う通り、火球は既に木の根元に向かって転がっているところだった、いや、よく見ると不恰好な胴体がコンクリートの地面を這い、頭部の火球を伴って移動しているに過ぎない。火球を携えた謎のクリーチャーが木の根元に辿り着き、根元が燃え始めた途端、瞬く間に木全体が発火した、かと思うと、やはり瞬く間に今度は木全体が炭化していた。所々から煙を撒きながら、黒い木が崩れ落ちた。木の崩壊は一瞬で完結した。
「木が」
「木より火球だ」
木を焼却した火球に裂け目が入り、大きく二つの半球に裂けた。燃える半球は一方の端でだけ繋がっており、その様はまるで昔流行ったアーケードゲームに出てくるプレイキャラクターのようであった。落ちている餌を食い、敵からは逃げるしかない彼に比べると、今まさに木を焼き尽くしたクリーチャーは比較にならない凶悪さである。裂け目が口である点は同じなのか、丁度裂け目の向きがVの形になるように上を向くと、崩れ落ちてくる炭がその中に次々と放り込まれていった。
丸々木一本分の炭を中に取り込み、喰らい切った火球は最初に立てたのと同じような爆発音を上げて地面を揺るがし、今度は何倍も大きなサイズになった。今や直径1mはあるだろうか、大きさで言えば精精ジムボールくらいかもしれないが、何せ燃え盛る火球であるから、恐ろしいまでの威圧感がある。火球の下にある胴体部分も同様に巨大化しているのが見えた。胴体の大きさは火球の大きさに追随するらしい。登場時の約10倍の縮尺になったクリーチャーがおもむろに手足を伸ばして立ち上がると、校舎の二階程度の背丈になっているのがわかった。同時に、地面を這い回っている時はほとんど見えなかった全体像がはっきりと見えた。胴体部分はライターだった。巨大なプラスチック製のライターに手足が生え、火花を散らして着火する部分に火球が付着しているのだ。
「で、何なんだ、ナインティーン」
パワークッキーか、と横で呟いているナインティーンに改めて聞いた。クリーチャーが先刻木を焼き尽くしたように今にも校舎を焼き尽くすのではないかと思うと気が気ではなかった。恐らく、サイズと共に火力も大幅に上がっているだろう。ナインティーンや奇妙な姿のクラスメイト達がほとんど騒がないので冷静さを保ってはいるが、幾らなんでも事態が尋常では無く、周囲の平静さが逆に恐ろしいものに思えてきていた。
「やはり妄想だ」
ナインティーンは芝居がかった所作で指をパチンと鳴らしながら答えた。
「妄想が付きまとうのは何も人だけではない。物にだってその影響は出る。特に自然物よりも人工物、すなわちアーティファクトだ。何故かというと、アーティファクトは何か特定の目的の元に作られたものだからだ。妄想の方向性をベクトル、脚色をスカラーとすると、アーティファクトの場合は、存在自体が明確なベクトルを持っている。勿論それ自身が願ったわけではなく、他から与えられた方向性では有るが、そのアイデンティティはベクトルそのものだ。アーティファクトが脚色する力をほとんど持っていないにせよ、本質のベクトルに引き摺られて大きな妄想を帯びることはままあるのだ」
「じゃあ、あのライターの場合はどういう?」
「君はライターの使い方も知らないのか?ライターの本質は『着火』に決まっている。着火というベクトルに何かスカラーが加わって爆発に至った」
「『着火』を脚色するスカラーというのは」
「湿度が低かった、そういう乾燥条件とか、火気があったとか。聞いてみないことにはわからないが、火を増長させる外的要因なんてそんなもんだろう」
「スカラーが蓄積して、着火というベクトルに干渉した結果、着火したいという妄想を持つに至った」
「人の妄想があそこまで大きな影響を及ぼすことはあまり無いが、アーティファクトの場合はベクトルが強烈だ。一度妄想を始めたアーティファクトはもう止まらない。衝撃は触媒となり、二次関数的にベクトルを脚色して、強力な妄想を作り出す」
「で、しかし、どうする。妄想を解決するのも、やはり妄想?」
私達が考察を深めている間に、ライターの怪物はどんどん大きさを増していた。今や背の高さは校舎を上回って余りある程になり、最初に生えていた人間の足に加えて、カマドウマのような気味の悪い昆虫系の節足を生やしている。校舎側ではなくグラウンド側に向かっていったのは幸いだが、火を吐くだけでは飽き足らず、節足を振り回して鉄棒や藤棚を破壊しにかかっているようにも見える。最早行動は着火を離れて単なる破壊になってきているような気もするが、破壊によって生成した瓦礫を燃料として供給することで着火を効率良く行うためなのかもしれないし、暴れるうちに着火という本質が破壊という本質へと変化してきているのかもしれない。あるいはただ単に動いていたら足が当たって物が壊れてしまった、という程度のことかもわからないが。
「妄想で彼を止めるのは難しいだろうね。人の妄想がアーティファクトの妄想に匹敵することは無い」
「その割には、皆、落ち着いているけど」
教室の様子は先程と変わらず異様であった。数人が窓の外を見て話の種にしているのが精精で、取り乱す者は一人もいないどころか、ライターが暴れまわる音が響いているというのに窓の外に目を向けずに熱心に勉強を続けている者すらいる。
「妄想が好きになると、どうも現実感が希薄になるんだ。たまにだけど、ひょっとしたら、死んだらずっと妄想していられるんじゃないかって思うことさえある」
「僕はまだ死にたくない。しかもライターに殺されるなんて」
「冗談だよ、半分はね。そして、クラスメイト諸君の自殺願望はともかく、主たる理由はじきに解決するとわかっているからだ」
もう半分は、と言いかけた時、化学実験室の辺りからグラウンドに五人の生徒が走っていくのが見えた。それぞれが長いホースを持っており、その先は校舎内へと繋がっているようだった。暴れるライターや、周囲に燃え移り猛る炎に比べると、走る生徒達は蟻のような大きさであった。ホースから水を撒いても、その影響力も蟻が噛み付いた程度としか思えない。
「彼らも自殺志願者?」
「とんでもない、救世主だよ」
「妄想で怪人ライターを倒して、我々を救ってくれるのか」
「別に、彼らは他人を救う妄想の保持者ではない。いや、これは言葉のあやで、そもそも他人のための妄想なんて有り得ないわけではあるが。誰かを救う妄想も君による君のための妄想だ。自分が何かを求める思いを原動力にしているのが妄想であり、妄想は利己的であることを免れない。仮に他人が何かを求める思いを原動力にしているかのような妄想が存在したとすれば、それは『自分が<他人が何かを求める思いを原動力にした妄想>を求める思いを原動力にした妄想』と言えよう」
「しかし、結果的に他人を救うことになるのは何も不自然なことではない」
「それはそうだ、しかも、妄想に限ったことでもない。だが、今回は違う。単なる現実が、妄想を打ち負かすのだ」
ホースを持った彼らは実は消火器具の妄想のマニアで、合体して消防車にでもなるのだろうか、という私の期待とは裏腹に、救世主たちは校舎側に向けて何か合図を送ると、ホースの先端についていた金具を捻り、ホースから放水を始めただけだった。圧倒的な火力の前にすぐに蒸発するかと思われた水は、全く掻き消されることなく力強くライターに向かっていった。ライターに水が届くと、水がかかった部分が青く変色して凍結したように動かなくなり、更に青く変色した面積に反比例してライターのサイズもみるみるうちに小さくなっていった。グラウンドのフェンスを踏みつける程にあったライターの背丈はすぐに武道館程度に縮んだ。
「妄想を妄想で制する必要は無い。妄想は現実に制される。と言うと、正確では無い。正確に言うと、妄想は現実に制されうる。微かではあるが根幹は確かな現実は、強烈ではあるが根幹はかよわい妄想を殲滅することが出来る。特に、アーティファクトの妄想はベクトルが定まっているが故に、逆方向のベクトルを当てるとすぐに0に収束してしまう。火に関しては、陰陽道曰く、相剋する木火土金水」
じきにライターは見えない程度のサイズになり、最期にいじらしく小さな煙を上げた後、遂に消滅した。
「なんだか、あっけないね」
「あっけなくない方が良かった?」
「いや。ところで、わざわざ言い直していたけど、現実に制されない妄想もあるの?」
「ある。まず妄想に対応する現実が存在しない場合。ただし、これは極めて困難だ。妄想がいくら独りよがりで省みないとしても、確固たる拠り所として現実に立脚しているという事実は認めざるをえない。例えば、現実からの逃避であるところの妄想は大いに歓迎されるべきだが、単に現実へのアンチテーゼであるところの妄想はアーティファクトのそれと同じくらい制しやすい。妄想のベクトルに対する逆ベクトルが余りにも露骨だからだ」
「それは自己矛盾。現実を元にして発生した妄想が、高々現実と衝突したくらいで消滅するはずが、もしくは、現実と衝突するはずがない。仮に君の言ったことが正しいならば、妄想はそもそも発生出来ない。テーゼとアンチテーゼは対消滅を起こさない。よしんば衝突によって変成が起こるとしても、やはりその二つがするのはアウフヘーベンだ。例えが混線しているんだ、アンチテーゼを持ち出すならば、ベクトルに対して逆ベクトルを持ち出してはならないし、ベクトルは即座に合成されるわけではない」
「理論的にはその通りだ。しかし、時間的変化というものがある。自己矛盾を起こして消滅する妄想は確かにあるんだ。宿主の理知、気概、欲望が変化し、妄想と現実の間の平衡定数が変化した場合、そしてその末に妄想が現実に素直に応対し始めた時、妄想は消滅しうる。これを進歩と見るべきか後退と見るべきかは状況と立場次第だし、妄想にとっての発展的解消であることもある。まあまあ、僕が言いたいのは、現実に立脚しない妄想が存在するならばそれは現実の干渉を受けないという思考実験だ」
「それならまあ、うん」
「次に、ああ、話題がズレてもうネタばらししてしまったような感があるな、つまり、もっと一般的には、妄想が現実との対応を頑なに拒否した時だ」
「それはもう、妄想の本質だろう。循環論法だ」
「まあね。表に対する裏、つまり実際を述べて、また今度は裏から表、理想を述べているだけ。だが、この世が現実である限り、実用と理論にまたがる運用は実用だ。どんな妄想にも消滅の可能性はある。そして君も気付いているだろうが、君の妄想も例外ではない。ここらが潮時だ」
ナインティーンは私の手を引き、教室を出てすぐのところにある水道まで連れて行った。水道の横には古びて曇った小さな鏡があり、彼と私がうつりこんだ。鏡にうつりこんだ私は一冊の本だった。
「これも、妄想に対する現実の一つってわけ」
「そうなる」
「一応聞くけど、これはアーティファクトとパラノイアのどっち?」
「アーティファクト」
ナインティーンが肩をすくめた。本の本質は記録、そして再生である。現実は既に妄想を侵食しつつあった。水道のすぐ近くにあった社会科準備室の扉が罅割れ、飴色の、渦巻く空間が出現した。罅はどんどん広がり、間もなく崩れて教室のあった扉を飲み込んだ。もう扉の向こうの教室は完全に飴色の空間に飲み込まれてしまっただろう。私は、崩れ行く学校よりももっと別のことに大きな空虚感を感じていた。今日様々な知識を得た気でいたが、終始単なる自慰行為に過ぎなかったということに対してだ。記録の中を胡乱な目で歩き回っていただけだ。新たなものが何も存在しないということが、これ程までに虚しいとは。
「わかるさ、妄想が切れた時は虚しい。だが、他に考えることがあるだろう」
ナインティーンが口を開いている間に、遂に私と私を抱えたナインティーンの立つ床にまで罅が走り始めた。
「君の妄想はどこまでが影響範囲だったのかを」
「どこって、記録と再生だろう」
「我々の妄想が君の妄想の内部にあったのならば、我々のルールは君の妄想に規定されていたことになるはずだ。しかし、君の妄想は我々のルールに従っていた、そしてそのことに君は気付いていなかった。つまり……」
「いや、それは有り得ない。鶏も卵もいないところに鶏も卵も生まれるはずがない」
「しかし、鶏と卵は確かに存在しているのだ。生まれるはずが無いものが生まれて、一度生まれたそれは堂々と歩き出す。我々は新しいものを供給出来るわけではないが、君それ自体では……」
ナインティーンがそこまで言いかけたとき、足元の罅割れが遂に崩れ、私とナインティーンはゆっくりと飴色の空間に下降していった。
「また会おう。さよなら、卒業文集」
意外にも、心の底から名残惜しそうなナインティーンの声を最後に、私の妄想は収束した。
私は本棚の中にいた。
明るい部屋だった。天気が良かった。青い空には白い雲がいくつか浮かび、強すぎない日差しが差し込んでいた。窓から冷たくない程度の涼しい風が吹き込み、カーテンを揺らした。
私は自分の妄想について思い返した。妄想をしている最中は記録を新鮮に感じたのは、その時に限って記録が既知の主体では無く未知の客体だったからだろう。妄想を抜けた今となっては、CITYが教室を出て行った時に彼は怒っていたのかそれとも無頓着だったのか、思い出すのは造作も無い。ルールが先か、妄想が先かももういいだろう。
さて、私はこれからどうするべきか?ひとまず、妄想をすることにした。
(おわり)
2013東大前期試験感想
評価は僕の主観です。まだ解答は見ておらず、自己採点もしていません。
・国語
回答プランは
漢→古→現
です。
初っ端からナンですが、国語の試験は試験場ではまあ解けた、という感想を持つものでありまして、解答を読んだ時に初めてどこが間違っていたのかがわかるものですから、感想を書くのが難しい科目なのです。
今回も自分では正答であろうというものを書いて提出しましたが、東大国語は誰がどう解いても大体40点くらいになるという言説は信じるに値すると思っています。
いつも漢文15分・古文15分・現代文40分くらいのペースで解くので30分近く余るのですが、やはりきっかり30分余って暇でした。
・数学
僕は数学については特に回答プランを設定しておらず、試験が始まったら全体をパラパラと見て解けそうなものから解くという戦略を取っています。
今回最初に全設問を確認した段階では易問揃いで完答が望める設問が多いな、という印象でしたが、いざ手を付けてみるとどれも中々手強い。2008年度の第6問のような見た目と難易度にギャップがある問題が多い気がしました。
例えば第3問です。単純な1/2コインを振って点数を与える問題で、推移図を描いて楽勝かと思いきや、実際に推移図を検討してみると扱わなければならない状態が非常に多く推移図で処理するのは困難です。また、いわゆるRandom Walkの要素を含んでいるので直接計算も同様に困難。僕は独自の場合分けを行う解法で回答しました。
せっかくなのでそれぞれの設問についても書きます。
第1問は漸化式の問題でした。が、第6項までしか扱っておらず、式自体も煩雑では無いので、直接全部の項を出して検討しました。条件(ⅱ)について少し間違えましたが、概ね問題無く回答出来ました。
第2問は関数の問題でした。定石通り第一次導関数を導出して検討すると第一次導関数を0とするxが無限個あるので一瞬面喰らいますが、実際にグラフを描いてみると最初の3個程度を検討すれば回答出来ることに気付きます。
第3問は先程書いた通りです。
第4問はベクトルの問題でした。初っ端から露骨に1:2:√3の直角三角形が出てきてうまく使ってやろうと意気込んでしまうところですが、(1)をよく読むと単に「3つの単位ベクトルの和が0になるときはどういう感じか」ということを聞いているだけですから、ベンツのエンブレムを描いて終わりです。(2)は3変数に対して余弦定理で出した3元連立2次方程式を解く解法を選択したのですが、式が複雑になり、解が出ませんでした。多分なにかベクトルや図形の形を利用して上手い解法を作れということだと思いますが、思い付かなかったので式を解こうとしたフリをして終わりました。
第5問は整数問題でした。(1)は不等式を解くだけかと思いきや、実際に解いていくと左の不等号と右の不等号でなにやら面倒な事態になっていきます。多分場合分けが必要になるんだと思うんですが、時間が無かったので、解ききれていません。(2)は多分今回で一番の難問だと思います。命題と誘導がどう繋がってくるのか未だに検討も付きません。
第6問は回転と積分の問題です。適当な空間座標を導入し、立体及び切断する平面の式を求めて議論する方針を考えはしたのですが、完璧に遂行するのは荷が重いと判断してほぼ白紙です。申し訳程度に問題文の内容を表す図だけ描いておきました。
最終的にはほぼ完答したのが1・2、半分取れたのが3・4・5、手を付けられなかったのが6という感じです。いかにも冷静に検討を重ねているような風で書きましたが、実は終始テンパり気味でしょうもないミスをしていることに回収する時に気付いたりと、どちらかというと散々な結果でした。
最初に易セットに見えたこともあってあまり解けなかったと落ち込んでいたのですが、各予備校の評価を見ると難化としているところが多いので、そんなに悲観することも無いのかなと思います。
・物理
理科の回答プランは物3→物1→物2→化3→化1→化2です。
第1問力学は単振動の問題でした。東大物理は最初は教科書レベルの設問から始まるというのは一年間師事した物理講師の口癖ですが、いつまで教科書レベルの設問なのかと思っていたら最後まででした。
第2問電磁気は帯電粒子の問題でした。誘導に乗って回答していくタイプの問題で、多分誘導に乗れたと思います。こういう問題は序盤でしょうもないミスをして後ろが総崩れになる事故が一番怖く、事故を起こしていないことを祈るのみです。
第3問波動は屈折の問題でした。確か去年度が波動だったので、「第3問は波動と熱力学が交互にくる」という統計的にあまり信用の出来ない言説によると今年は熱力学のはずなのですが、別にそんなものを信じて熱力学一本に絞って勉強してきているわけではないですから、大きな支障は無いのは受験生全員が同じだと思います。簡単なⅠの後はⅡで横波と縦波を同時に検討せよとか訳の分からないことを言い始めるんですね。ホイヘンスの原理に基づいた誘導に乗っていけば回答が出せるのですが、結構時間を使ってしまいました。ⅢはⅡが正解していることが前提になるのが怖いですし、配点が低そうな雰囲気だったので(1)だけ解きました。
全体的に簡単だったんですが、先程書いた通り物理は1問間違えて残りが総崩れになる負けパターンが存在しており、事故が起きていたらどうしようもないです。
・化学
化学は小問が多くて細かい感想を書くのが面倒臭いので大雑把に書きます。
第3問は標準的な難易度でしたが、アミノ酸について割りと突っ込んだことを聞いてきたのが意外でした。面食らって「等電点」が出てこなかったり、やや後悔が残ります。
第1問・第2問も多分標準レベルです。何気なく出題されていた「王水の作り方」って受験化学としてはかなりマイナーな知識だと思うんですが、どうなんでしょう。Kingを示す名前や、唯一金を溶かせる最強の酸という性能の厨二臭さは年頃の男子にはビンビン来るものが有りますから、男子は受験以外の場所で王水に親しんでいるようなイメージがあります。例えば、「トリコ」第45話を読んでいた受験生は難なく回答出来たでしょう。
・英語
回答プランは
1A→3(下読み)→4A→4B→3→2A→2B→5→1B
です。
1A 要約は5分で終わり、LS設問下読み後、4A・4Bまでスッと解けました。まだリスニングまで時間が余ったので2Aを終わらせ、2Bを途中まで書いたとこ ろでリスニング開始。リスニング終了後は例年に比べて自由度が高い2B英作文が泥沼になるのを回避するため、プランを変更して5→1Bを先に処理、残りの 回答時間で2Bを仕上げました。
全体的に易化していたと思います。1A・1B・4A・4B は単純に問題が易しく、2A・2B・5は標準程度でした。極めつけはリスニングの超易化です。去年度は人が話しているところに別の人が割り込んでくる、笑いながら話す人がいるなど絶望的に聞き取りにくい内容だったのですが、今年は標準よりも遥かに遅いスピードで、しかも文と文の間のポーズが長いため内容を 頭の中で整理しやすかったです。やや聞き取りづらい英語を話す人も数秒登場したものの、英語を習いたての中学生に話しているかのような白々しさすらある明 瞭な発音が目立ちました。
また、傾向が変わっている問題が多かったです。1Bでは長らく続 いてきた段落整除や不要文を指摘する問題が軒並み削除され、文章中の空欄に代入する適切な文章を選択する問題に変わっていました。4Aは元々去年度が単語 の書き取りになっていたりと内容が一定しない設問ではありますが、今年は単語並び替えで全3問。2A英作文は「写真に会話文を付けよ」というあまり例の無 い問題でしたが、今までも出題のある絵・写真を説明する問題の派生形というところでしょうか。
こんなにずらずら書いて落ちていたらアレですね。
では。
2/27 晴れ
大日本帝国憲法(仮)です。
東大前期試験終了を以って受験二年目がひとまず終わり、暇なのでブログを開設しました。
今まで使ったことのあるブログはFC2・ココログ・seesaaの3つですが、特にどれが良かったということも無いので、今回は適当に目に入ったはてなを選択してみました。
筑駒では中学二年~高校一年くらいがブログ文化最盛期、ブログを書いている同級生諸君が最も多く、更新頻度も高かった時期と記憶しています。高校二年あたりからブログ文化は自然消滅、今我々は大学一年か二年というところですが、時間が出来たらブログを再開する人が増えるのかしらん、と思いきや未だに再生の影すら見えず、いや、そうではなくて、別のコミュニティでブログを書いているのではあるが、単に高校時の同級生という以上の関係にない僕が知る道理が無いというだけかもしれない、別になんでもいいですけどね。
そんなこんなでとりあえずは3/10まで、ひょっとしたら4/1までなんか書きます。
では。